リエヴィト・マードレを育て、リフレッシュメントを行い、準備生地、本生地を仕込み、ピルラトゥーラで成型し、ピロッティーノ(紙型)に入れて仕上げ発酵を経て、いよいよ焼き上げます。この工程で失敗すれば、全ての“苦労”は水の泡。特に水分がしっかり抜けていないと、カビの原因となってしまいます。
完璧な焼き上がりを保証する焼成温度はありません。オーブン庫内温度は表示どおりというわけではなく、また、工房がどの地域のどのような場所にあるか、高度の高低によっても違ってくるからです。実際、同じ作業を経た生地でも、異なる二つのオーブンで焼くと、表示されている温度は同じでも、出来上がりが違うというのはよくあることです。またコンベクションオーブンとそうでないオーブンでは15℃ほどの違いがあるとも言われています。何れにしても、使用するオーブンの“クセ”をよく知り、表示温度は必ずしも正しくないことを覚えておかねばなりません。
焼いている間は水分を抜く必要があるので、スチームは不要。また温度が高すぎると表面が焦げて固まり、余分な水分が抜けなくなります。表面が焦げることなく、内側もしっかりと焼き上がる目安はおよそ160℃。焼き時間は1kgでおよそ55分ほどですが、それにこだわってはいけません。パネットーネ特有の香りが一斉に“成長”し、生地表面の糖分がメイラール反応によってカラメル化し、こんがりとした焼き色がついてきたら、一つ取り出して中心をめがけて温度計を刺します。中心の温度が92℃に達していれば良し。これは、でんぷん質がゲル化する温度であり、また他の材料がしっかりと焼成している目安でもあります。92℃を超えると水分が失われ、またそれよりも低いとグルテン網が安定せず、焼成後に逆さに吊るすと中身が出て落ちてしまいます。また、たとえ中身が出なくても水分が過剰に残るため、後のカビの原因になってしまうのです。