リエヴィト・マードレ保護協会会長に聞く、リエヴィト・マードレの話(後編)

「リフレッシュメントを行うリエヴィト・マードレ保護協会 Consorzio per la tutela del lievito madre da rinfresco」初代会長、アンナ・サルトーリさんへのインタビューの後編と、協会が定める規定をご紹介します。

 

 

 

 

正しく作られたパネットーネとは?

正しいとか、最良の、というような絶対的な言葉は使いませんが、協会では今、パネットーネの官能分析を行なっており、テクスチャー、色などさまざまなポイントにおいて評価をつけています。例えば、パネットーネの色が明るい、あるいはくすんでいるという場合、それはどうしてそうなったのか、という理由を系統立てて説明できるようにしようというわけです。まだ研究の最中ですが、骨格については、フィオッカータ(ふんわりした薄片が集まった状態)であるべきなのは確かです。それがきちんと形成されていれば、生地の練りが正しく行われた、つまり、グルテン網がしっかり形成されたこと、酵母とバクテリアの構成バランスが正しいことの証明となります。また、クロスタ(外皮)部分からは、どのように発酵が進んだかを見ることができます。正しく発酵が行われれば凹みはなく、凹みが見られる場合は、過発酵や水分過多などが考えられます。
さらに色、そして香りについてはさらなる研究が必要です。香りは特に正しく発酵したかどうかを見極めるポイント。発酵を促しすぎると香りのバランスが失われてしまったり、求めるものとは違う香りが出てしまいます。鼻につんとくるような匂いがなく、バランスが良いかどうかが重要。リエヴィト・マードレの状態を確認するときは、バニラや自家製のアロマを使わずに焼成して香りをチェックします。

大切なのは、職人は自分のリエヴィト・マードレのコントロールを失わないことです。もし、酸味の強いものができたとしても、それは自分の意志でそのような結果を求めたのであればよく、たまたまそうなってしまったという結果に陥らないようにしなければなりません。リエヴィト・マードレがどのような状態なのか、職人は常にわかっている必要があります。しかし、いつも顕微鏡を覗いてチェックするわけにはいかないので、触覚と味覚で確認します。苦味がないか、酸味が強くないか。その他にも3倍に発酵するまでにどの程度の時間がかかっているか、などいくつかの目安で確認を行います。
コンテストなどでなされる評価には一定の基準があり、骨格がきちんとできているかどうか、外側に凹みがないかどうか、焼き色は強すぎず適度な色味を持っているか、苦味や酸味がないかどうかといった点をクリアしなければなりませんが、コンテスト以外では、自分が望むものがきちんと表現されているかどうかが重要です。たとえカビを思わせる匂いがあったとしても、それが自分の意図したものであれば問題ではありませんが、たまたまそうなってしまったという不制御の印であってはならないのです。もちろん、カビの匂いは発酵に失敗していることが原因なので歓迎すべきものではありませんが、例えば、酸味については、自らの意図する結果と合致しているならば良いと言えます。
現在、パネットーネは、甘くデリケートな香りと味わいで、苦味や酸味などの刺激がない方が良いと考えられていますが、個人的には、苦みや酸味は感じられる方が良いと思っています。もちろん、生地そのものがそのような味わいを持つのではなく、他の材料によって味わいに複雑さをもたらすべきでしょう。

協会ではリフレッシュメントを行うリエヴィト・マードレを使っていることを示す認定マークを出していますが、このマークがあるパネットーネより、リエヴィト・インダストリアルなど半加工品を使ったパネットーネの方が美味しいと評価されることもあります。この認定マークは、美味しいとか優れているという証ではなく、違うものであるということを伝えるのが役割。インダストリアルのパネットーネや、リエヴィト・インダストリアルを使ったパネットーネを駆逐したり、ネガティブに評価するのではなく、別物であるという理解を広めていくのが協会の目指すところです。

 

 

 

 

 

DISCIPLINARE DI PRODUZIONE DEL “LIEVITO MADRE DA RINFRESCO”
「リフレッシュメントを行うリエヴィト・マードレ」の製造についての規定

「リフレッシュメントを行うリエヴィト・マードレ」は、小型・大型、スイート・セイボリーの発酵製品を作る際のベースである。

「リフレッシュメントを行うリエヴィト・マードレ」(別名パスタ・アチダ、パスタ・マードレ、インパスト・アチド、リエヴィト・ナトゥラーレ、サワードウ)という名称は、規定に則った製造工程を実施し、この規定とこの協会が定めた条件を満たしたものにのみ使用される。

注*リフレッシュメントを行うリエヴィト・マードレlievito madre da rinfrescoは、日本語訳を「自家培養発酵種」とする。

 

●Denominazione 命名

膨張(Lievitazione)は、二酸化炭素が生成されることで発生するプロセスである。

膨張は以下の物質により発生する

  1. 酒石酸水素カリウム(ケレモル、クリームオブタータ)や炭酸水素アンモニウムなど”化学”製品
  2. 発酵作用のある生物 この場合はさらに二つに分けられる

 -ビール酵母

 -リエヴィト・マードレ

膨張作用のある生物を用いた”自然”な膨張は、リエヴィト・マードレの仕込み方によって以下のように分けられる

  1. 自発的な発酵によるリフレッシュメントを行う
  2. リフレッシュメントや製造に再使用可能な、選別され培養されたスターターを用いる

協会は、人類の財産である“リフレッシュメントの技術”のみを用いて発酵種を製造する者を保護する。

会員は、バクテリアと酵母という共生集団を生み育て、リフレッシュメントという技術によって自然発生的な発酵を操る者である。リフレッシュメントの方法は、発酵製品の栄養価と人間の五感で知覚する性質を左右するものであり、それをコントロールできることが、協会が保護する会員が真のプロフェッショナルであることを示す証である。

 

●Descrizione del prodotto a cui si applica il presente disciplinare 同規定が適用される製品仕様

「リフレッシュメントを行うリエヴィト・マードレ」は、大小、スイート、セイボリーなどさまざまなベイクド製品の製造に用いられるベースである。

主に粉と水で構成され、さまざまな温度湿度のもと、製造所の空気中や原材料に内在していた乳酸菌と酵母菌によって、自然発酵が行われたものである。

 

●Caratteristiche del lievito madre リエヴィト・マードレの特徴

熟成した「リフレッシュメントを行うリエヴィト・マードレ」は、以下のような特徴を備える。

・酸性であり、大体においてpH4.8を下回る

・白色で、イエローゴールドを帯びている

・酸味はあるが心地よく、苦味はない

・長く伸びた気泡がある

・酵母菌とバクテリアの比率は1/100もしくは1:10

・微生物学的特徴:微生物学的プロファイルと化学的・物理的パラメーターによる特定(微生物の代謝物の分析も含む)が、協会の研究対象であり、この規定及びコントロール作業の補完的かつ根本的な要素である。

 

●Prova dell’origine del prodotto リエヴィト・マードレの元についての証明

「リフレッシュメントを行うリエヴィト・マードレ」の仕込みには、水、出所が明らかな小麦粉を使用する。卵、牛乳、砂糖、香草が含まれている場合は、インパスト(生地)であり、「リフレッシュメントを行うリエヴィト・マードレ」ではない。

「リフレッシュメントを行うリエヴィト・マードレ」の熟成は、培養されたスターターや発酵補助製品、ビール酵母などを使うことなく、自然発生的に行われなければならない。

「リフレッシュメントを行うリエヴィト・マードレ」の認定は、会員のラボラトリーにおいて、協会が定めた検査計画に基づいて、第三者の機関によって行われる。

熟成した「リフレッシュメントを行うリエヴィト・マードレ」があることが、認定の第一条件である。

 

●Metodo di produzione del Lievito madre da rinfresco「リフレッシュメントを行うリエヴィト・マードレ」の製造方法

◆La fermentazione spontanea 自然発酵

「リフレッシュメントを行うリエヴィト・マードレ」は自然発酵によって成し得る。以下の二つの方法がある。

・水と粉を練った生地を常温下で自然発酵させる

・ヨーグルト、植物、香草など菌を保有するものを水と粉を練った生地に加えて発酵を起こす

 

◆Il rinfresco リフレッシュメント

リフレッシュメントは、「リフレッシュメントを行うリエヴィト・マードレ」の根本的な要素で、この作業がないものは、同名の認定はできない。

リエヴィト・マードレを管理し、熟成させるために認められている唯一の作業であり、それゆえ、補助的なスターターやそのほかの膨張作用を引き起こすものの使用は禁じられる。

リフレッシュメントは、「リフレッシュメントを行うリエヴィト・マードレ」の一部と、小麦粉のみ、あるいは小麦粉と水と共に練ること。

回数、温度、時間、水とそのほかの材料のパーセンテージは、作り手がどのようなタイプのリエヴィト・マードレを意図しているのか、何に使うのかによって変わり、作り手によって個々に異なるものである。

 

◆La conservazione 保存

「リフレッシュメントを行うリエヴィト・マードレ」の保存にはいくつかの方法がある。

  1. metodo tradizionale legato 伝統的繋縛

リフレッシュメントした生地をシーターで伸ばし、ロール状にして、一枚または複数枚の布で包む。その後、微生物が十分に働く時間を考慮して熟成させてから冷蔵庫で保存する。時間、温度、湿度は、保存の期間、意図するリエヴィト・まードレのタイプによって変わり、作り手次第で異なるものである。

  1. metodo in acqua 浸漬

リフレッシュメントした生地をシーターで伸ばし、ロール状にして、水に漬けて休ませる。時間、温度、浸漬方法は、リエヴィト・マードレのタイプ、製造目的、保存期間などに応じて、作り手が調節する。

  1. metodo libero 自然放置

リフレッシュメントした生地をそのまま、容器に入れて保存する。時間、温度、湿度は保存の期間、意図するリエヴィト・まードレのタイプによって変わり、作り手次第で異なるものである。

  1. metodo liquido リキッド

クリーミーな状態になるよう水分量を調整してリフレッシュメントを行う。時間、温度、水分の割合は、リエヴィト・マードレ内の微生物プロファイルによって異なり、作り手自身が採用する技術に応じて、製造目的、保存期間を考慮しつつ調整運用する。

協会の認定を得るには、一年を通じて複数の保存方法を採用して「リフレッシュメントを行うリエヴィト・マードレ」を維持することが不可欠である。

 

●I controlli コントロール

製品が「リフレッシュメントを行うリエヴィト・マードレ」のみを使ったことを保証するには、4段階にわたるコントロールが不可欠である。

  1. 製造現場:適切な設備を整えているかどうかの保証
  2. 製品:化学的、物理的、分子的特性の分析及び官能的パラメータを用いた分析を製品に対して行う
  3. 作り手の能力:技術的能力を常にアップデートすることが不可欠。そのために協会は、科学的な研究と密接に提携し、情報を共有する
  4. 情報:協会が発する情報が正確で真実を語るものであることは最重要である

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Via Volta, 8b Erba (Como)
クリスマスにはさまざまな発酵菓子が出揃う。通年提供している発酵菓子はローフ型のヴェネツィアーナ。そのほか朝食用のブリオッシュ、小型のヴェネツィアーナなど。

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