パネットーネ大学その1 パネットーネのルール

イタリアのクリスマス菓子の代表といえば、パネットーネ。その季節性という枠を取り外して、一年中パネットーネを楽しもうというプロモーションを展開しているジャーナリスト、ダヴィデ・パオリーニが、その活動をサポートしている製粉メーカー、ペトラと共同で「パネットーネ大学」なる活動を始めました。「正しく美味しい職人手作りのパネットーネについての知識を深める」ことが目的。その第一回目は「ルール」についてです。

 

2005年7月22日に制定され(2017年5月16日に改定)、2006年1月29日に施行された省令において、パネットーネは「サワー種を用いた自然発酵による柔らかな生地で、丸い形状、表面には特徴的な切り込みがあり、中は縦長の気泡が見られる空気を含んだテクスチャーで、サワー種発酵による典型的な香りがする焼き菓子」と定義され、原料やその最低使用量も規定されています。

原料は、a)小麦粉、b)砂糖、c)新鮮な卵または卵黄、あるいは両方、この場合卵黄は4%を下回らない d)バター、全体の16%を下回らない e)レーズンと砂糖漬け柑橘皮、全体の20%を下回らない f)自然発酵のサワー種による元種 g)塩。

さらに、使用して良い材料は、a) 牛乳及び乳製品 b) 蜂蜜 c) モルト d) カカオバター e) 砂糖(白以外) f) イースト、1%以下 g) 自然香料とそれに準ずる合成香料 h) 乳化剤 i)保存料ソルビン酸 j) 保存料ソルビン酸カリウム。

また、例外として、a)レーズン、砂糖漬け柑橘皮不使用も可。b)パネットーネの中にクリームなどを詰めたり、シロップに浸けたり、アイシングなどを施したり、その他飾りやフルーツをあしらうことも可。また、全体の50%を超えない範囲で、その他風味を特徴づける素材やバター以外の油脂の使用も認められています。こうした“不使用”や“添加”はラベルに明記することが義務付けられていますが、使用する各副材料の量についての細かい規定はなく、製造者の裁量に任されています。

工程は、1. サワー種を準備する 2. 生地を作る 3. 生地を一定の重量に切り分ける 4.生地を丸め(この作業をピルラトゥーラpirlaturaという)、型に入れる 5. 発酵 6. 生地表面にクープを入れる(スカルパトゥーラscarpaturaという) 7. 焼成 8. 冷却 9. 包装の9段階。

以上の規定から外れる場合、パネットーネとは呼ばず、別の名称、例えば「ドルチェ・ディ・ナターレ(クリスマスのお菓子)」などと記すことが定められています。

 

この省令は、インダストリアルのパネットーネにも手作りのパネットーネにも適用されますが、これを読むといくつかの疑問が浮かんできます。「自然発酵がパネットーネの重要な材料だとしたら、それ以外(イースト)を使うことが許されるものなのか?」「保存料の使用を認めることは、“自然”と冠した発酵食品に矛盾しないのか?」「インダストリアル、手作り、両方に当てはまるこのルールに果たして皆納得しているのか?」さらには、「クリスマス時期に売り出される大量のパネットーネ全てがこの規範を守っているのか?」「保存方法と賞味期限を表示する実効性は果たしてあるのか?」。

ペトラの食品技術コンサルタントを務めるフランチェスカ・モランディン曰く「合成香料や、カビを防ぐ保存料(ソルビン酸、ソルビン酸カリウム)、E471と表記されるグリセリン脂肪酸エステル系の乳化剤、そして1%までの使用が可能なイーストなどが認められていますが、これは見直されるべきです。こうした政治的な“譲歩”が、自家培養発酵種を使い、保存料や合成香料を使わない手作りのパネットーネを保護するとは到底思えません。この省令の見直しをするよう、働きかけなければ」。その父親で発酵菓子専門指導者ローランド・モランディンも「本物の職人は、ビール酵母(イースト)は使いません。自家培養発酵種は、正しいパネットーネ作りの根本ですから。合成香料も使ったことは一度もない。パネットーネは、自然の発酵種と、レーズンと砂糖漬け柑橘の香り、上質のバニラのみを感じさせるものなのです」と言います。

同社の製菓講師ニコラ・ボーラも、「手作りの伝統を守るため、このルールの改変は必要だと思います。ルールに含まれていないフルーツとかナッツを新たに認めるとか、そういう流行に流される改変ではなく、本物を守るための見直しをすべきです」と語ります。さらに付け加えて、「半加工品を使ったパネットーネもパネットーネとして認めるべきではない。近年増えているこうした似非パネットーネは、その名を語らず『クリスマスの発酵菓子』とでも名乗るべきです。作り手、そして消費者を守るために、ルールは“本物の”パネットーネを規定し、それを作る職人の後押しをすべきなのです」。

例えば、イタリアのとあるメーカー製のパネットーネのラベルにも乳化剤(モノ及びジ・グリセリド)の表記があり、賞味期限は製造から7ヶ月以上。乳化剤は、生地が固くなるのを防ぎ、保存期間を長くする働きがあるので、ごく一般的に使われています。一方、自家培養発酵種を使った伝統的なパネットーネの賞味期限はだいたい1ヶ月、まして美味しく食べられるのは10日間とも言われています。食べ手としては、長期保存が可能なパネットーネと、伝統を守って作られたパネットーネを見分け、どちらを選ぶかの基準を把握することが大切です。