パネットーネ大学その4 発酵

イタリアで、パネットーネの広告で有名なセリフがあります。それは「piano, piano, buono, buono(ゆっくり、ゆっくり、美味しい、美味しい)」というもの。実はこれ、発酵工程のことを指しています。時間をかけた発酵こそが、パネットーネのテクスチャー、味わい、香りの全てを左右するのです。

パネットーネの発酵は、自然の微生物によってもたらされる長時間発酵です。そして、正しいボリュームに至るまで発酵させることが次へのステップにつながります。成功の秘訣は、急がず待つこと。発酵は温度と使用する砂糖の量によって、時に加速し、時にゆっくりと進みます。正しいボリュームに達するまで発酵させることに重点を置かねばなりません。

第一の生地(前夜に仕込んだ生地)は、3倍量に増加していることがポイント。計量カップ(5L程度)に入れた生地が正確に3倍量に達しているかどうかを確認してから、第二の生地(本生地)の仕込みに移ります。

第二の生地は練り上げた後発酵、そして分割、休ませてから成型(ピルラトゥーラ)し、ピロッティーノ(紙型)に入れて仕上げ発酵をします。この仕上げ発酵では5倍にまで膨らませます。発酵した生地の表面のトップが紙型の縁の高さより指一本ぶん低い位置に達するかどうか、というくらいが発酵完了の目安。それ以上でもそれ以下でも良くありません。

発酵は温度だけでなく、パネットーネの大きさ、リエヴィト(発酵種)の状態、混ぜ込むフルーツなどの材料によっても左右されます。時間の長短に惑わされず、発酵の具合を見極めることが最も大切なのです。そして、発酵種はこの時点だけでなく、さらにオーブンの中でも最後に生地を上へと伸ばす力を発揮することを忘れてはいけません。菓子職人の中には、このオーブンの中での発酵を最も重視する人もいます。焙炉(発酵庫)の中で発酵させすぎると、菌が失われてしまうけれど、オーブンの中ではその心配がないからです。

焼く直前にクープを入れます。パネットーネメーカーとして成長した製菓会社Mottaは、100年前すでに、農家の伝統であった神への感謝の印としてパンに刻みつけていた十字形の切り込みを取り入れていました。当時は、パネットーネの表面に十字模様をつけた後、表面を軽く炙り、十字部分を開いてバターのかけらを差し込むという方法だったとか。焼き上がった時、表面に艶を出すための工夫でした。現在は炙ることはせず、カミソリで切り込みを入れ、バターを中に入れるか、あるいは切り込みを入れずにバターをトップに乗せるだけの方法もあります。正しいリエヴィト・マードレを使っていれば、表面に切り込みを入れてもしぼむことはありません。リエヴィト・マードレによって発生した微細な気泡がクッションの役目を果たしているからです。もし、これが、ほんの少しでもビール酵母を使っていると、切り込みによって膨らみが破壊されてしまいます。ビール酵母による発酵は目の粗い気泡を発生させ、そこからは簡単に空気が抜けてしまうのです。