パネットーネを作るのに際し、出来上がりを大きく左右する要素というと、まず素材の品質、発酵種の状態とその力が挙げられますが、そこに加えて、ミキシングも重要となってきます。ミキシングがうまくいくか否かによって発酵も変わり、焼成時の窯伸びにも影響を及ぼすからです。ミキシングの工程においては、いくつかのポイントがありますが、その中でももっともベーシックな項目といえば、「どのようなミキサーを使うか」でしょう。規模や予算、何を主に作るのか、どの程度の時間をかけるのかによって様々な選択肢があり、イタリアでは通常、フックの種類に応じて、「フォルチェッラ(フォーク)」「スピラーレ(スパイラル)」「トゥッファンテ(ダブルアーム)」の三つのカテゴリーに分けます。
「フォルチェッラ」は一般的にやや湾曲した大型の2本フォークで、空気を取り込みながら生地を練るために考え出されたもの。非常にゆっくりとした動作で材料を混ぜ合わせていくため、温度が上がりにくいのが特徴。生地への負担が少ないので場合によっては温度が下がることもあります。ただ、大型であることがほとんどなので、小さな工房には不向き。大量に高加水率の生地を扱うのであれば検討して良いミキサーです。
「スピラーレ」は文字どおり螺旋状のフックです。螺旋の間隔が狭いと生地への負荷は強め、間隔が広いと生地への負荷が弱くなるという特徴があります。また、ミキシングボウルの底がすり鉢状であれば、全ての粉を捉えることができ、特に材料を投入した最初の時点で素早く粉と水分が馴染むので、しっかりとした均一のグルテン網が形成されます。
「トゥッファンテ」は人間の二本の手でこねる動作を再現したもの。二本のアームのうち、一本で生地を掴み、もう一本で伸ばすというそれぞれの役割があり、より多くの空気を生地に取り込めるという特徴があります。また、高加水率の生地をも扱いやすく、摩擦が少ないため温度が上がりにくという利点も。ゆえに、生地に負担をなるべくかけないことを信条とするコンテンポラリー・ピッツァや、バターを大量に使うパネットーネに向いていると考えられています。
ある程度の規模を持つ製菓店やベーカリーでは、パネットーネ作りに「トゥッファンテ」を使用するのが一般的です。ただ、家庭ではオールマイティなドゥフックで作る人も少なくありません。その場合は空気を取り込む量が限られているため、気泡が育ちにくく、緻密なテクスチャーのパネットーネに仕上がる傾向にあります。