鈴木弥平シェフのオンラインマスタークラス 開催レポート(2/2)

リストランテ「ピアットスズキ」の鈴木弥平シェフによるパネットーネ作りのオンライン・マスタークラスの二日目。

10時30分。4倍に発酵したプレインパストの登場です。「目盛り付き容器の底を下からトントンと叩いて、しぼんでしまうようであれば発酵過多です。ミキシングボウルに入れて発酵させた方は、表面に張りがあり、内壁に接しているあたりに気泡が出来始めていれば、ちょうど良い状態の印。ほのかに甘酸っぱい香りであれば良し。酸っぱいというより甘い感じの匂いです」。ちなみに、日本人の感覚では、例えば容器の目盛りの200から800まで発酵していると4倍と表現しますが、イタリアでは3倍というので不思議です。

昨日のこね上がりが28度、焙炉は26〜27度に設定して一晩。今朝9時ごろには発酵の状態が良いところに達していたので、温度を24度に下げ、10時半のスタートに合わせました。ミキシングボウルに生地、小麦粉を入れて回し始めます。プレインパストは30度を超えなければ良しとしますが、セコンドインパスト(本練り)は26度を超えないようにしなければなりません。また低すぎても発酵がそこで止まってしまいます。気温の高い今のような季節では、このまま回すと温度が上がってしまうので、下げる工夫が必要。粉もそのほかの材料も全て冷やしておき、作業部屋の温度も冷房19度に設定しました。

8分経過した頃、ミキシングボウルの底を触って温度が上がってきていると感じ、氷を二片ほど投入。「プレインパストで水分を減らしているので、セコンドインパストでは調整水としての氷を入れることができます。もし、プレインパストの時に水が必要になったら水を加え、セコンドインパストで温度が上がった時はボウルごと冷やします」。

14分経過した頃、冷やしておいた砂糖を加えます。一気に入れるとグルテンが壊れてしまうので、ほんの少し、生地に気づかれない程度に。同じく卵黄も少しずつ、最初は一滴ずつ入れるくらいの気持ちで加えていきます。「30年ほど前に参加した、イタリアの菓子職人の巨匠、イジニオ・マッサーリの講習会では卵黄を一個ずつ加えていたので、それを真似したのですが、生地がうまく繋がりませんでした。講習会ではパネットーネ20個ぶんくらいを作ったのに対し、自分は2個くらいしか作らない。同じようにしてはダメなのではと思い、卵黄はほんの少しずつ加えるようにしたら、うまく繋がったのです。生地が卵黄で滑っているうちは次の卵黄を加えず、繋がったら加える。この時に砂糖も少し加えます。そしてだんだんと加える量を増やしていきます」。

卵黄が全量の2/3ほど入ったら、バターも加えていきます。スライスしてカチカチに冷やしたバターですが、一般的に、こんなに冷たいバターを入れるのは良くないとされます。「でも、ある程度の温度の生地に少量の冷たいバターを加えてもダメージはありません。バターを加えてもこのように生地にすぐ溶けていかないということは、生地温度は24度くらい。もし26度であればバターはもっと早く生地に馴染みます。あまり早く馴染むようであれば、バターは冷凍してもいいでしょう。とにかく温度を上げないことです」。

次第に生地の状態は伸びのある“ビヨーン”とした状態に。こうなれば、もう生地が壊れることはありません。残りの卵黄、砂糖、バターを少しずつ加えていき、30分が経過。「内壁に生地がくっついてゴムのように伸び、ある程度伸びたら内壁から剥がれるという状態が理想。いつまでも伸びるのも、すぐに剥がれるのもダメです」。

37分が経過し、バターがすっかり馴染んで生地にツヤが出てきました。ここでちょっと高速にして、生地に力を加えます。生地が一体化し、底面からだんだん剥がれるようになってきたらストップ。生地を持ち上げるとゴムのように伸びます。バニラと蜂蜜、アロマ(イタリア製。パネットーネ専用)、砂糖漬けフルーツ(今回は黄金柑を使った自家製のパスタ・ダ・アグルーミ=柑橘のシロップ煮ペースト)を加え、全体が混ざる程度に回します。練りすぎるとフルーツから水分が出てきてしまうので、あくまでも大体混ざる程度に。

練り上がった生地の温度を測ると21度。やや低めですが、問題はありません。手にバターをたっぷり塗り、鉄板にもバターを塗って、生地を取り出して鉄板へ。生地は切れずにひとかたまりの状態です。フルーツがまだ完全に混ざっていないので、鉄板の上で軽く練ってフルーツを均等に行き渡らせます。そして、分割。今回は1個750g、6個ぶんに分けます。それぞれを丸くまとめ、28度に設定した焙炉に60分ほど置きます。ここでひとまずセミナーはほぼ終了。(この後、番外短編として「焼成までの流れ」を動画収録。そのレポートは下部参照下さい。)

 

セミナーの総括:鈴木シェフ談

なぜ昨日はできたのに、今日はうまくいかないんだろう、ということもあります。それは、相手は生き物だから仕方のないことです。100点を目指すのではなく、80点を目指していればなんとかなります。私も、成功した数と失敗した数で言えば、成功した数がやや多いくらいで、今も失敗は多いです。

コロナ禍で大変ですが、そのぶん、パネットーネを作る、向き合う時間ができましたし、こうやってセミナーで話す機会も得られました。前向きに考えて、コロナ禍が過ぎ去った時に、明るい未来が待っているのでは、と期待しています。

 

セミナー後の番外編「焼成までの流れ」

セコンドインパストの練り上がりが21〜22度と低かったので、28度のホイロで90分寝かせました。生地はなんとなく発酵が始まっている状態。これをピロッティーノ(紙型)に移します。

バターを塗った両手で生地を持ち上げて、たたむように三つ折りに。90度回転させて再び同じように三つ折り。生地の奥に手を軽く添えて手前に引き寄せる感じで表面に張りを持たせます。表面をつるっとした状態にするのです。だいたい均一な張り具合に整えたらピロッティーノに入れます。この時の生地温度は25〜26度。

「生地をピロッティーノに入れ、すぐにそのまま焙炉で発酵させていけば、パネットーネの形にはなります。そして仕上がりは、ふわふわのパンのよう。コンテストに最初に出品したのは、そんなふわふわのパネットーネでした。しかし、最近は、見た目よりもパネットーネの内相にこだわっています。不恰好であっても、縦でも横でもとにかく生地が薄く剥がれるような内相を目指しているのです。その一つの工夫が最終発酵前の放置時間です」。

「室温22〜24度くらいで、乾かないようにラップをかけ、しばらく放置して、緩やかに発酵させます。生地の具合によりますが、(夏場は練るのが大変でも酵母にとっては良い環境で、発酵力が強い)、今日は90分放置することにしました。ちなみに、室温ではなく、冷蔵庫で温度を下げるという方法も考えられます。どのようにするかは、目指すもの、好みに合わせて調整するのです」。

放置=緩やかな発酵を終えたら、28度の焙炉に入れ、生地の頭がピロッティーノの高さより少し(1cmくらい)出るくらいまで発酵させます。今回は11時半に練り上がり、焙炉で90分、そして13時から90分室温で放置、再び焙炉に移して3時間ほど発酵させるので、焼成は18時ごろの予定となりました。練り上がりから6時間半での焼成です。目安としては、6〜8時間の間に焼成すれば酸味は出ません。発酵を遅らせて12時間、24時間後に焼くと酸味が出てくるので、あまりお勧めはしません。

最後の焼成では、予熱を200度に設定。熱い鉄板の上にパネットーネを載せて庫内に入れますが、オーブンの扉が開いているのでその時の温度は170度くらい。扉を閉めて、165度に設定。最初は無風で10〜15分、パネットーネに色がつき始めたら160度にし、風を入れます。焼き時間は、750gで45分。1kgを焼く時の目安60分を基準にして調整します。

 

以上が、この二日間のマスタークラスのおおよその実録です。実際にはもっと細やかな説明や、作業を(オンラインではありますが)披露していただくことで、より微妙なニュアンスを感じ取ることができるセミナーとなりました。