最優秀新進菓子職人がパネットーネ作りのポイントを伝授

「菓子職人&菓子店ガイドGuida Pasticceri&Pasticcerie」で2021年最優秀新進菓子職人賞に選ばれたマッテオ・ドルチェマスコロ(Pasticceria Dolcemascolo)が、家族から受け継いだパネットーネの作り方を食の総合メディア「ガンベロ・ロッソ」に公開しました。美味しいパネットーネを作るには、いうまでもなくまず第一に上質な材料を使うこと、そして、最新の注意を払って常に微調整を繰り返すことが不可欠です。

「使うのは地元フロジノーネの製粉会社の粉。鮮度第一ゆえ、挽きたての粉をすぐに手に入れられることがポイントです。そしてバターはフランス製。イタリアでは、生乳の表面に浮かんでくる乳脂肪分を掬って作るバターが一般的ですが、菓子職人としては遠心分離で乳脂肪分を取り出したピュアなバターを選びます」。

それから、バニラも重要。ドルチェマスコロでは、二人が交代で5〜6時間かけてバニラのさやからシードを取り出します。ここを丁寧にやるかどうかで香りが全く違ってくるのです。そして、砂糖漬けフルーツも自家製。旬の時期にシチリアからオレンジを、カラブリアからはチェードロを取り寄せて仕込んでおきます。特にチェードロは高価で手間がかかりますが、欠かせない素材。レーズンはチリ産を使い、48時間洗浄して不純物を取り除いてから使用します。そのほか、スペシャルバージョン用のチョコレートは単一品種のカカオ67%のものを使います。

製造工程においてまず重要なのは、リエヴィト・ナトゥラーレ(リエヴィト・マードレ=自家培養発酵種)を正しく育てておくこと。パネットーネ作りの第一歩です。このリエヴィトを砂糖を加えた水で純化し、発酵力を高めた後、ミキサーに移し、粉、砂糖、水とともに練ります。ドルチェマスコロでは、ダブルアームを使い、速度を何回か変えて材料をしっかりと混ぜ合わせることにポイントを置いています。練り上がりの目安は「ひも状になっている」(粉もの発酵の専門用語で、正しい弾力性を得ている)こと。この時点では、グルテンの網に影響を及ぼす卵、バターは加えません。「イメージとしてはパン生地の練り上がりと同じです。そしてここからパネットーネが出来上がるまで三日間、発酵の具合を逐一見守っていくのです」。

練り上がった準備生地(プレインパスト、第一生地)は深い容器に入れ、12時間発酵させます。3倍に膨らんだら取り出してミキサーに移し、蜂蜜、卵黄、バター、砂糖などを加えて練ります。ここで油脂がしっかりと吸収されるかどうかが鍵です。砂糖漬けフルーツなどを加えて練り上がった本生地(インパスト、第二生地)を切り分け、ボール状にまとめます(ピルラトゥーラ)。しばらく休ませた後、ピロッティーノと呼ばれる筒状の紙型に移し、三度目の発酵をさせます。18〜20℃で12〜13時間後、表面がつるりと膜が張ったようになっていたら、カミソリで十字のクープを入れ、さらにその膜をはがすように刃を入れて膜を広げ、中央にバターの小さな塊をのせ、160℃のオーブンで50分ほど焼きます。一つを取り出して中心の温度を計り、93℃を超えていたら焼き上がり。正しい作り方を経たパネットーネは、オーブンの中で2倍に膨らんでいます。それを萎ませないために、焼きあがったらすぐに逆さに吊るし、ゆっくりと冷まします。中心温度が25℃以下になれば完成です。

「難しいのは、リエヴィト・マードレをどう扱うか、というところ。何度も手がけて自分で理解していくほかはありません。水の中で作業するときは、砂糖の力を借りてpH4ぐらいを保つこと。そしてもう一つ、気をつけなければならないのは、本生地を練っている間、30℃を超えないようにすること。温度が高いと油脂が溶け出してしまいます」。いずれにしても、一朝一夕にできるものではく、ましてやオリジナリティを表現できるようになるには経験と試行錯誤が不可欠。“発酵菓子は一つの芸術”と言われる所以です。