パネットーネ大学その5 丸くまとめる

ピルラトゥーラとは、パネットーネを作る工程において、最も特徴的な作業の一つ。どういう作業なのかは百聞は一見にしかず、なのですが、あえて説明するならば、「生地の側面を底面の中心に集めるようにして丸く閉じ、表面が滑らかな球体にする作業」。これにより、パネットーネは焼いている間に上へと伸びていくのです。つまり、この作業がうまくできなければ、パネットーネは台無し。うまくできるようになるにはひたすら経験を積むしかありません。

作業にる際に手にバターを塗ります。オイルなど他の油脂は焼いている間に酸敗するので不可(同じ理由でオリーブオイルを使ったパネットーネは日保ちしません)。また、打ち粉も焼くとカラメル化(メイラール反応)を起こす上、後のカビの原因にもなるので使いません。

計量分割した生地を台の上にのせ、バターを塗った両手でネジを回すように回転させながら、生地の“お尻”を絞るようにして余分な気泡ができないようにします。この時にしっかりと気泡を抜かないと、焼き上がった時に大きな穴になったり、空気が抜けてしぼむ原因になります。紙型(ピロッティーノ)に生地を入れる時も、底面をぎゅっと押して中の空気を抜きます。

ピルラトゥーラは、背が高く表面をシンプルなクーポラに仕上げるミラノ伝統スタイルにおいて特に重要な工程です。背の低いトリノ式(Galupスタイルとも)では多少問題のあるピルラトゥーラでも表面に施したアイシングでカバーすることは可能です。何れにしても、この作業の巧拙が、パネットーネの出来を左右することには変わりありません。そして、職人ごとにピルラトゥーラの方法は少しずつ異なるため、出来上がるパネットーネの“表情”も異なります。つまり、職人の手技を表現する証なのです。