鈴木弥平シェフのオンラインマスタークラス 開催レポート(1/2)

去る5月21日の夜、そして22日の朝、リストランテ「ピアットスズキ」の鈴木弥平シェフによるパネットーネ作りのマスタークラスが開催されました。その様子を2回にわたってレポートいたします。

 

第一日目のスタートは21時半。リエヴィト・マードレ(自家培養発酵種)がすでに良い状態に整っており、開始早々、プレインパスト(準備生地)を仕込みます。「リエヴィト・マードレの管理がパネットーネづくりでは一番重要」と鈴木シェフ。「これをマスターすれば、パネットーネづくりは8割がた成功していると言ってもいいですね」。リエヴィト・マードレの中を開くと、内側に綺麗な網目模様ができているのが見えます。「ほのかに甘酸っぱい香りがします。食べてみるとかすかな甘みを感じますね。pHは4〜5が望ましい」。リエヴィト・マードレの内側をちぎりとり、必要量を計量してミキシングボウルへ。そこへ粉、モルトと砂糖を合わせたもの、卵黄を加え、ミキシングを開始。目安は15分です。

「パネットーネを作るにあたり、リエヴィトの次に大切なのが温度管理です。温度が上がるとパネットーネ特有の膨らみが出ません。ダブルアームのミキサーなら温度が上がりにくいのですが、今日は一般的な縦型のミキサーで、温度が上がらない工夫をしていきます。例えば、バターや粉を冷やしたり、作業部屋を丸ごと冷やしたり。氷や氷水を使うこともあります」。

ミキシングしている間に、リエヴィト・マードレの起こし方を説明します。1日目、2日目、3日目...と日を追って撮影した画像を見せての説明です。鈴木シェフが使うのはレーズン。コーティングされていないレーズンに水を加え、暖かいところに置いておくと、2日目にはレーズンが浮き始め、3日目は泡立ち、4日目にはレーズンが完全に浮いて、発酵が始まっています。使えるようになるのは6、7日経った頃、レーズンが全て上面に浮き、下に沈殿物が見える状態になったら攪拌して布にあけ、よく絞って漉し取ります。その液体に小麦粉を混ぜ、発酵させていくのです。液体に対し、倍くらいの粉を加えて練り混ぜたら丸くまとめ、16〜24時間発酵。「液体と粉の割合は厳密でなくても良いです。レーズン液種の発酵から、やがて小麦粉の発酵に変わっていくというのがこの工程。リエヴィト:粉:水を1:1:1の割合から、徐々に水を減らし、最終的に1:1:0.5にしていきます。最初はくすんだ色だったのが、作業を繰り返していくうちに真っ白になります」。こうして三週間くらい経過すると、ベストな状態、つまり、3.5時間〜4.5時間で3倍の大きさに膨らむようになります。

ベスト・コンディションのリエヴィトは、必要量をちぎり取って使い、残りは明日以降に使うため保存します。保存方法は、軽く練って気体を抜き、二重にしたラップで包み、さらにフィルムで包んで、厚手のビニール袋に入れ、ラップできっちりと包んだら布に包み、紐で縛ります。「発酵力が恐ろしく強いため、こうでもしないと破裂してしまうのです。発酵をなるべく抑えたいので、保存は冷蔵庫で。一週間はこの状態で保存はできますが、その間にもゆっくりと発酵は進み、また、再開するときのリフレッシュメントにも時間がかかります」。

ほぼ毎日、リエヴィトを使ってパネットーネやパンを作っている「ピアットスズキ」。パネットーネ作りは、朝9時、リエヴィトのリフレッシュメントから始まります。まず、冷蔵庫から取り出したリエヴィトをスライスし、1%の砂糖を加えた24度の水に浸します。「状態の悪い場合は浮かばずに沈みます。また、不純物も水の底にたまります」。10〜15分後、浮いているリエヴィトを取り出して水気を拭き取り、リエヴィト1、粉1、水0.5の割合で合わせ、ミキシング。丸めてボウルに入れ、26度で発酵。4時間後、2.5倍くらいの大きさになったら再び同じ作業。これを合計で3回行います。「毎回、粉を足していくので、どんどん量が増えてしまいます。それを防ぐためには余分を廃棄しなければなりませんが、そこがレストランのようなところでパネットーネを作る障害になっているかもしれません。ただ、毎日やっていくと安定してきます。特に液種はもう10年くらい継いでいて、一部はリエヴィト作りに、残りは冷蔵庫に保存して、いつでも使えるようにしています。バゲット生地に加えたり、ちょっと発酵力をつけたい時に使ったり、液種があるとレーズンから起こすよりも簡単で時間を短縮することもできますね」。

 

ミキシング開始から15分近く経過。生地を取り出して引っ張ってみるとガムのように指にくっついて離れず、薄く透けるような状態ではありません。また引っ張り続けるとパチンとちぎれる感じ。「ここにバターが入ると、“ビヨーン”とした伸びに変わり、引っ張ると薄く透けるような状態に変化していきます」。用意したバターの一部を投入し、ミキシング再開。「ずっと回していると温度が上がってしまうので、バターはごく薄切りにして冷やしておいたものを使います」。

バターを入れてから4分くらいは、生地がバターをはねのけていたのが、だんだん乳化して生地に馴染んできます。そこへさらにバターを入れていきます。「マヨネーズの作り方に似ていますね。卵黄に少しずつ油を加えていきますが、乳化してきたら油の量を増やしても分離せずにどんどん混ざっていく。それと同じで、バター2/3量が入れば、あとは量を増やしても早く馴染みます。温度が上がってきたら、ボウルの底に氷水を当ててください」。27分が経過した頃にバター全量が入りました。「生地が良い感じにつながってきて、底から剥がれるようになっています」。ボウルの内壁についたバターをゴムベラでこそげ落とし、さらに回します。29分が経過したあたりでこね上がりました。「目安は30分ですが、40分くらいかかっても大丈夫。大切なのは温度管理です」。生地をステンレス台にあけ、生地の具合を確認。台にべたーっとくっついても、持ち上げると剥がれ、バターが入ったので引っ張ると薄い膜のように透けます。「さらに練っていくとつややかな、イタリアで言うところの“プラスチックのよう”になり、発酵がうまく進まなくなります。1回目の練りではツヤを出すことにこだわる必要はありません」。

「プレインパストで一番大切なのは、その次の発酵を最優先に考えることです。練り上がった生地を焙炉に入れる際、季節によって温度設定の調節をします。5月の今は、26〜27度に設定。冬場は29度。12時間ほど発酵させますが、発酵完了の目安は、目盛り付き容器に入れた生地が4倍になるくらい。発酵力が弱いと、例えば16時間で4倍になっても、その生地には酸味が出てきます。そして、次の工程でも発酵に時間がかかるため、どんどん工程に遅れが生じて、結果的に、発酵過多で酸味の強いパネットーネになってしまいます」。

生地の一部を目盛り付き容器に入れ、残りはミキシングボウルに戻してラップをかけ、穴を数カ所あけて、どちらも焙炉へ。生地温度は28度。「許容範囲ではありますが、ちょっと高い。焙炉は26度に設定して一晩置きます」。

 

「イタリアの大量生産のパネットーネを初めて食べた時、大したことないなと思いましたが、コンテストに出てくるパネットーネはまた全然別物です。手作りで、一度に10個とか20個くらいしか作っていないものは、温度管理もきめ細かくて、食べた時に、美味しいというよりも技術的にすごい、負けたなと思いました。戻ってからはレシピも変えました。今のレシピでは、水の量をものすごく減らしています。初めて作る方にはちょっと難しいかもしれません。水が多い方が簡単で発酵もしやすいですから。明日のセコンドインパストでは水はほとんど入れません。入れたとしても調整のための少量です。その代わり、ドライフルーツは一度さっとぬるま湯で戻してから入れます。そのぶん水分量が増えるんですね。それをざっくり計算して、プレインパストの水を減らしています。だから、プレインパストの生地はものすごくかたい。かたいということは、リエヴィトにきちんとした発酵力がないとうまく発酵しないのです」。