イタリアの発酵菓子マエストロたちが集うアカデミー、「アッカデミア・デイ・マエストリ・デル・リエヴィト・マードレ・エ・デル・パネットーネ・イタリアーノAccademia dei Maestri del Lievito Madre e del Panettone Italiano(MLM)」が2020年9月に発足。クラウディオ・ガッティ代表をはじめ、マウリツィオ・ボナノーミ、サルヴァトーレ・デ・リゾ、パオロ・サッケッティ、ヴィンチェンツォ・ティリ、カルメン・ヴェッキオーネなどそうそうたるパスティッチエレが名を連ねています。菓子職人だけでなく、ピッツァ職人、パン職人も、発酵に真剣に熱心に向き合う者であれば会員になることができます。会の目的は、高いクオリティを追求すること。アカデミーが認め、かつ、作り手の名前がパッケージに明記されているパネットーネ(を始めとする発酵菓子)には、品質保証を示すロゴマークが付与されます。
昨今、パネットーネ熱はどんどん高まっていますが、そのせいで、必ずしも品質が保たれているとは言えない製品も増えています。このアカデミーは、品質を守り、正しくアルティジャナーレ(職人による手作り)と言えるものはなんなのかを消費者にも知ってもらうために設立されました。作り手それぞれのスタイルや特徴を尊重し「一つ一つのパネットーネは唯一無二である」と定義する代表のクラウディオ・ガッティ。大量生産のパネットーネが市場を凌駕するこの時代、“リエヴィティスト”(リエヴィトを扱う者)である職人の復権を目指すのが目的です。「この仕事は、落とし穴だらけの困難を伴い、時間、忍耐、献身、知識、尊重の心を要する」とガッティ。目に見えない“素材”が、最終的に表出するのが発酵菓子の特徴だとも言います。
「だからこそ、メイド・イン・イタリーの発酵菓子、特にパネットーネについての作り手の知識と自覚を守り、広げ、育てていかねばならない」と語ります。まずは素材。アカデミーの規則第三条には「素材は非大量生産の高品質のものを選び、妥協せず、近道を行かない」とあり、リエヴィト・マードレの加工品、半加工品、代用品はもちろん、マーガリン、フリーズドライ卵、合成香料、保存料、乳化剤のほか、出どころ不詳の素材は一切使用不可。伝統的パネットーネには、「新鮮な卵、新鮮なバター、イタリアの製粉メーカーの粉、イタリアの砂糖漬けフルーツ、砂糖、イタリアの蜂蜜、上質なドライフルーツ」のみが使用可能です。
会員は、品質を守るための姿勢を一貫して守らねばなりません。それは工房内だけでなく、対外的にもです。例えば、半加工品やアカデミーの規則に反する素材メーカーのテスティモニアルやイベントの審査員を務めてはなりません。同様のイベントに参加することも不可です。もし、第三者のためにコンサルタントや製造を請け負い、その製品にアカデミーのロゴマークをつける場合には、アカデミーの会員の工房内で製造を行わねばなりません。そして、アカデミーの規則から逸脱した製法の製品、ましてやインダストリアルやセミ・インダストリアルの製品に会員の名前を冠することも認められません。使用する素材や製品の質だけでなく、アルティジャナリタ(職人が作り上げること)も大切な要件であり、決してないがしろにしてないけないものなのです。
では、食べる人が、伝統に則った上質なパネットーネを見極めるためにはどうすれば良いのでしょう。その答えとして、アカデミーが定めた”十戒“があります。
- 原材料 パッケージに添付されているエチケットを注意深く見ることが大切。アカデミーが規則第三条で認めている素材のみを使っているかどうか。伝統的パネットーネでは、保存料や合成香料、乳化剤の使用は認められていない。
- 形状 表面がクーポラ状に丸く盛り上がり、そこに十字のクープの跡が残っているのが伝統的パネットーネの特徴。リエヴィト・マードレによって発酵させた非常に柔らかい生地を丸くまとめて焼き上げると、上面の外皮には自然なひび割れが現れる。
- 色 外側はこんがりと焼けた褐色、内側は濃い黄色。卵の量によってではなく、質によってこの内部の色は変わる。つまり鶏がどんなエサを食べているかに左右される。
- 紙型(ピロッティーノ) パネットーネの生地はわずかに紙型から剥がれていれば、バターと卵がたっぷり使われている証。逆に紙にぴったりと張り付いている場合、貧弱な素材を使っている可能性がある。
- 香り パネットーネが入っている袋を開けた時、まず自然な香りがするかどうか。もしレーズンの香りがするならば、それは刺激的であってはならず、アルコールや硫黄の匂いもあってはならない。(硫黄は防カビ剤としてよく使われる。)りんご、チェードロ(シトロン)、オレンジ、小麦粉、リエヴィト・マードレなどが調和したかぐわしい香りがするはず。攻撃的な強い香りではなく、包み込まれるような、さまざまなものが複雑に組み合わさった心地よい香りであれば良い。
- テクスチャー パネットーネを切るときは、ぎざ刃の長いナイフを使うこと。切ったときに、ポロポロと崩れるのは良くない生地。軽いのにしっかりと繋がっていて引っ張ると裂けるような状態が正しい。べったりとしていたり、乾きすぎているのも良くない。生地をつまむと繊維が感じられ、薄片が剥がれような感じが理想。
- 気泡 ハチの巣のような縦長の気泡が見られないのはパネットーネではない。この気泡は、生地の中で発生した発酵による二酸化炭素の痕跡。
- 砂糖漬けフルーツ 大きさが不自然な揃い方をせず、またイレギュラーに混ざっている状態なら、手作りの証拠。職人が自ら選び、カットすれば、一つ一つ異なった表情を見せるのが自然。
- バランス 1〜8まで上げた全ての要素、つまり、規則を守った素材を使っているか、外はこんがり褐色で中は濃い黄色か、香り、砂糖漬けフルーツ、気泡、生地のテクスチャーは柔らかく繊維を感じさせるかどうか、それらが全て整っていてはじめて、バランスの取れたパネットーネと呼ぶことができる。
- 味と記憶 パネットーネは昔の記憶を呼び覚ます。香りと味わいが一つになって、今までに過ごしてきたクリスマスの思い出が走馬灯のように現れる。逆に言えば、昔の思い出が一気に蘇ったら、今、食べているそのパネットーネは正しいパネットーネの証。