明日4月4日は復活祭。シェフたちのコロンバ百花繚乱

イタリアでは、パネットーネに比べると、コロンバはこれまでさほど注目されることはありませんでした。パネットーネがクリスマスのお菓子として全国に定着したのに比べ、復活祭ではまだ各地の伝統菓子が根強く支持されていること、そして、クリスマスは家族皆で集まってパネットーネを囲む団欒のひとときを過ごす一方、復活祭の時期は旅行に出かける習慣があるため、コロンバへ関心を寄せるということがなかったのです。しかし、パンデミックのおかげですっかり様相は変わりました。昨年はロックダウン真っ只中で余裕がありませんでしたが、今年はテイクアウトや取り寄せで、自宅での復活祭を楽しむ人が飛躍的に増えると考えられます。それを見越して、新たにコロンバを売り出すお店が増えており、特に、休業を余儀なくされているレストランにとっては貴重なビジネスチャンス。名だたるレストランのシェフが創意工夫したオリジナル・コロンバが次々と登場しているのです。その幾つかを、ガンベロ・ロッソwebが紹介しています。

ベルガモ近郊ブルサポルトにあるミシュラン三ツ星レストラン「ダ・ヴィットリオ」は、パンデミック以前からパネットーネやコロンバを作っており、毎年大人気です。粉は複数の製粉メーカーのものを独自にブレンド。安定した出来上がりを確保するためで、理想の配合にたどり着くまで数年を費やしたと言います。そのほかの材料についても同様に、何度もテストを重ねて吟味したものを使用。さらに昨年秋には専用工房を設けて一年中発酵菓子を提供すべく取り組んでいます。バターたっぷりのしっとりとした生地にオレンジとバニラの香りが素晴らしいコロンバのほか、創業50年を記念してジャンドゥイアとオレンジピールを使ったヴェネツィアーナのアレンジ「ラ・ジョコンダ」がこの時期のラインナップです。

 

ソレント半島ヴィーコ・エクエンセの一ツ星「アンティカ・オステリア・ノンナ・ローザ」が手がける今年のバリエーションは、ミルクチョコレート、ビターチョコレート&アマレーナ、マンダリンとアーモンド・パスタとアプリコットの3種類。どれも生地はふっくらとして気泡がたっぷり、食べるとシルクのように滑らかでしっとり、噛みごたえがありながら口どけの良さが印象的。もちろん、柑橘、バニラ、アーモンドのクラシック・コロンバも秀逸とのこと。

アブルッツォ州の三つ星「レアーレ」などを展開するシェフ、ニコ・ロミートのラボラトリーから発表されたコロンバは、所有するワイナリーの畑の葡萄から仕込んだリエヴィト・マードレ(自家培養発酵種)をベースに、油脂の一部をバターに代えてアーモンドのエマルジョンを使い花を思わせる香りを与えているのが特徴。ブルボン・バニラ、柑橘の蜂蜜、自家製のオレンジピールを使ったクラシックと、薄く削ったチョコレートを混ぜ込んだバージョンの二種類があります。

1962年創業のミラノの二ツ星「イル・ルオゴ・ディ・アイモ・エ・ナディア」では、コロンバはミラノ伝統であるパネットーネに比べて自由度が高いことから、今回初めてチョコレートに特化したコロンバを販売。カカオパウダーとカカオマス、そしてアプリコットのソフトなシロップ煮を使用しています。クラシックタイプはカリカリとした歯触りのグラッサ(アイシング)を施しますが、チョコレートバージョンは柔らかさを全面に。袋に入れる際にもアルコールをスプレーして柔らかさを保つという、クラシックなパネットーネの手法を取り入れています。

「我々の伝統ではないお菓子を、“カバー”するのではなく、自分たちなりの表現として作る」というアブルッツォ州アヴェッツァーノのレストラン「マンマロッサ」。コロンバやパネットーネは通常グルテンの強い粉を使いますが、あえてグルテンの弱い粉で生地を仕込みます。ポイントは温度、「23度を越えると生地がダメになる」と気を遣います。そのほかの材料はなるべく地元のものを使用して2バージョンを手がけました。一つはクレメンタインのピールとアーモンドの「プリマヴェーラ」、もう一つはチョコレートとヘーゼルナッツの「トータルブラック」。アメリカで発生した事件から始まった「black lives matters」運動に共感を表明するコロンバ(平和の象徴)です。

ソレント半島ネラーノの二ツ星レストラン「クアットロ・パッシ」のコロンバは、イタリアのトップ・パスティッチエレたちの薫陶を受けた本格派。バターは一部にノルマンディ産を使って酸度を調整、ソレント産のオレンジ、デリケートな風味のレンゲの蜂蜜、マダカスカル産バニラ、グルテンのあまり強くない粉、そして、地元の女性がパン作りに使うやや酸度の高いリエヴィト・マードレをベースに生地を仕込みます。出来上がるコロンバは「都市で作られたものとは全く違う、この土地ならではの味」です。

ミラノの「カルロ・クラッコ」のコロンバは「伝統回帰」を謳います。発酵には焙炉を使用せずにゆっくり発酵させ、最近流行りのたっぷりの気泡を目指すのではなく、とにかくソフトな生地を追求。ただ、温度の管理が難しくなるため、リエヴィト・マードレは紐で縛るタイプではなく、水に漬けるピエモンテ式。やや高めの室温下であれば扱いは難しくないと言います。そのほか、グラッサには砕いたヘーゼルナッツを加えてカリッとした食感をプラス、オレンジの酸味を生かすため、ピールにするときの糖分を微調整するなど、ディテールにこだわりが込められています。

イモラのミシュラン二ツ星、往年の名店「サン・ドメニコ」は意欲的なバリエーションを展開。マンゴー&リコリス(柔らかくシロップ煮にしたマンゴー、リコリス、チョコレート、リコリス風味にキャラメリゼしたチョコレート)、ストロベリー&チョコレート(野いちごのシロップ漬け、ホワイトチョコレート、ビター・チョコレート)、そしてクラシック(とはいえ、オレンジピールのほか、レモン、ベルガモット、マンダリンのピールも使用)の三種類を発売しました。シチリアの二ツ星「イル・ドゥオモ」が、ローマの奇才パスティッチエレ、ファブリツィオ・フィオラーニとのダブルネームで発表したのコロンバも、オレンジとレモンの砂糖漬けピールとフレッシュのすりおろしの両方を使った、柑橘の香りたっぷりのバージョンです。

コロンバという一つの舞台の上でさまざまなアレンジが繰り広げられる復活祭。パンデミックが落ち着いて、レストランが再び活動を開始しても、シェフたちの研究心に火をつけたコロンバはますますバラエティに富んだものになっていくでしょう。