ジェラート職人が作る、ジェラートに合うパネットーネ

パネットーネにジェラート。パネットーネの食べ方アレンジとして、好相性の組み合わせの一つと言われます。でも、その視点はパネットーネが主役。一方、エミリア・ロマーニャ州レッジョ・エミリアのジェラテリア「カポリネア」が提案するのは、“ジェラートに合うパネットーネ”です。

オーナーのシモーネ・デ・フェオは、IT業界からジェラート職人に転身したという経歴の持ち主。これだけならイタリアではよくある話です。なぜなら、イタリアにおいてジェラテリアは開業しやすい業態。機械はリース、材料は半加工品を購入すれば、最短の準備期間で始められるからです。しかし、シモーネはジェラートの面白さの虜となり、いかにして美味しくナチュラルなジェラートを作り出すかに専心する職人。ジェラート作りには「文化、注意力、知識、感性、そして情熱が必要」と語り、ジェラートの魅力を最大限に引き出すためにあらゆる方角から研究を重ねました。その結果、たどり着いた答えの一つが、発酵菓子だったのです。

シチリアでは、ジェラートをブリオッシュと呼ぶ柔らかくてほのかに甘いパンに挟んで食べる伝統があるように、そもそもジェラートと発酵菓子は浅からぬ縁にあります。その関係を一歩進めて、パネットーネ、ババ、コロンバなど、リエヴィト・マードレ(自家培養発酵種)を使うさまざまな発酵菓子とジェラートとのペアリングを楽しんで欲しいと提案しています。特にパネットーネは、毎月フレーバーを変え、クリスマスの定番ミラノ伝統スタイルを始め、オレンジピール&ビターチョコ、ジャンドゥヤ&洋梨、コーヒー&ホワイトチョコ、レモン&アマレーナ&ビターチョコなどを手がけてきました。

6月の今は、レモン&グリーンティ。パスティッチェリア界における南の巨匠、コラード・アッセンツァが営む「カフェ・シチリア」のレモンピールと、龍井茶の茶葉と抽出液を加えたもので、爽やかなレモンの香りに発酵生地由来の乳酸、バターの香りが折り重なるように立ち上ります。生地のテクスチャーは非常に軽く、ふわふわとしていて、口の中でとろけるような柔らかさが印象的。甘味は程よく、緑茶の風味はほとんど感じられずとも、バターの後味をさっぱりと消し去ってくれるところが、今の季節にぴったりです。そして、食べているうちに「これはジェラートが欲しくなる」と思うから不思議です。もちろん、そのままでも十分に美味しいのですが、ジェラートがあればもっと美味しくなるタイプなのです。実際に「カポリネア」では、このパネットーネに焦がしバター&ローズマリーのジェラートを合わせることを勧めていますが、お店でしか試せないのが残念。

同店では、ヴァーゾコットゥーラと呼ばれる耐熱ガラス容器で密閉焼成する方法も採用。柔らかさと風味を長期間保てることが特徴で、昨今では特にババの製造にこの方法を取り入れている作り手が増えていますが、「カポリネア」では一部のパネットーネにも取り入れ、より長く柔らかさを楽しめるようにしています。パネットーネとジェラートのペアリングではその味わいの相性ももちろんですが、テクスチャーのバランスを図ることも大切。滑らかなジェラートと違和感なく溶け合うふんわりしたパネットーネの組み合わせは、ジェラート職人ならではの新しい提案と言えるでしょう。