パネットーネと同じく、グランデ・リエヴィタツィオーネ(偉大なる発酵)と称されるコロンバ。このコロンバは、パネットーネに比べると自由度が高いという声もありますが、リエヴィト・マードレ(自家培養発酵種)が主役であることには変わりなく、経験と忍耐を必要とするお菓子です。このほど、ガンベロ・ロッソ(イタリアの食の総合メディア)は、コロンバを作ることにおいてのポイントを、イタリア菓子職人界の重鎮の一人ジーノ・ファッブリに尋ねました。ガンベロ・ロッソより2009年の最優秀パスティッチエレ賞を贈られ、イタリア菓子職人協会の相談役を務めるマエストロで、ボローニャ近郊に近代的なパスティッチェリアとアトリエを構えています。
「コロンバは、復活祭のお菓子の別名といっても過言ではありません。クリスマスにはパネットーネ、パンドーロ、トローネほか、各地に伝わる伝統菓子がありますが、復活祭はどの菓子店でもコロンバと卵型チョコレートに注力します。コロンバの特徴はまずその形。生地そのものはパネットーネとほぼ同じで、混ぜ込む素材はレーズンなし、オレンジピールのみ。この二つの違いがパネットーネとは全く異なる印象を与えます。また、時期が異なるということは、食べる側にも違った印象をもたらします。特に気温は大きなファクター。もし、12月にオレンジピールのコロンバを食べたら、きっと違和感を覚えるでしょう。」
「コロンバを作るにあたり、パネットーネとの大きな違いは、これもまた気温です。外気温が15度違えば、リエヴィト・マードレに大きく影響してきます。酢酸を発生するスピードが上がるため、管理に神経を使いますし、生地に含まれる水分のコントロールも重要です。」
「原材料は最も重要な要素です。粉は挽きたてが望ましい。バターは自然分離ではなく、遠心分離方式を選びます*1。オレンジピールは賞味期間は短くなりますが、化学的処理をしていない未殺菌のもの。香料は、オレンジ・パスタ*2、カカオバター、バニラなど自然のもの。このように素材にこだわっていくと当然値段も上がります。また、オレンジ・パスタは自家製なので、こうした仕込みにも時間がかかってきます。」
「工業的に作られてものに比べ、職人の手作り(アルティジャナーレ)の場合、エチケットは非常にシンプルです。使用している素材を記載しますが、保存料や乳化剤(モノグリセリド、ジグリセリド)は入りませんから。そして賞味期限は、香りやテクスチャー、味わいが保たれる期間という意味でおよそ30日くらいが基本です。」
「アルティジャナーレのコロンバかどうかを見極めるポイントはいくつもありますが、例えば、見た目が完璧すぎないこと。手作りですから多少の不完全は残ります。食べてみるとシルクのようななめらかさで、目をつぶると全ての素材の風味を感じられます。バランスの取れた香りがあれば完璧です。」
職人の経験と技術、上質な素材が、美味しいコロンバづくりには不可欠というマエストロの言葉は、シンプルながらも説得力に満ちています。
*1イタリアで一般に作られているのはアッフィオラメントaffioramentoと呼ばれる自然分離方式。チーズを作るときに一晩を置いた牛乳の表面に浮いた脂肪分をすくい取ってバターにしたもの。一方、フランスやベルギーなど北ヨーロッパで主流なのはチェントリーフガcentrifugaと呼ぶ遠心分離方式で日本のバターもこの製法が一般的。自然分離式は雑味が多く、製菓業界では品質的に劣るとされている。
*2 イタリアでパスタ・ダ・アランチョと呼ぶ、オレンジで作るペースト。シロップで煮たオレンジをミキサーで柔らかなペースト状にする。加熱せずに作る方法もある。コロンバやパネットーネのほか、様々なお菓子に香りを与えるために使用する。オレンジ以外の柑橘(レモンなど)を使って作ることもある。